日本で生まれ育ち、20歳を過ぎるまでは、ほとんど日本の外の世界を知りませんでした。
小・中・高校は公立校で学び、大学は私立でしたが、とにかく日本で普通の日本人としての教育を受けました。 その頃とはだいぶ様子も変わっていて比較にはならないと思いましたが、日本の教育よりもオランダの方が自由度が大きい、将来の選択肢も多いと考え、娘たちにはオランダでオランダ人と同じ教育を受けさせました。
結果は・・・。結果を語るにはまだ時期尚早ですし、何を基準にして判断すればいいのかもよく分からないし・・・、当然日本で教育を受けていたら違った人生を歩んでいるだろうし、それを比較するのは難しいですね。 でも、この選択は決して間違っていなかったと思っています。
オランダでは小学校でも落第(学力が一定レベルに達しないために進級できない)がありますが、落第しても「落ちこぼれ」などと言われることも無く、周りも温かく見守っています。失敗してもやり直しができる社会というのは素晴らしいと思います。
落第があれば、飛び級もあります。教わることはすべて理解、したがって授業中はちょっと退屈している、というような子は先生から飛び級を勧められることもあります。でも小学生のうちは周りの子達と体格も変わってしまうし、友達も新たに作らなくてはいけない、などの理由で親が躊躇うこともあるようです。
また社会に出てからも、自分でお金を払ったり、中には雇用主がある程度負担したりして、いろいろな資格を取る人が結構多いです。17 時には仕事を終え、家で夕食をとってから、学校に行きます。19 時ごろから3 時間ぐらい、週に数回、1~2年勉強して、資格を取ります。 それによって、会社内での地位が上がったり、給料が上がったりします。努力がきちんと報われる社会は、これまた素晴らしいですよね。
オランダの教育:
1.初等教育 basisschool
2.中等教育 middelbare school
3.高等教育 hogeschool
4.オランダの大学 universiteit
1.初等教育 basisschool
オランダの初等教育は4歳から始まります。4歳の誕生日を過ぎると学校へ行くことができます。でも、一応義務教育は5歳から始まります。
そして、12歳までの8年間、Basisschool に行くことになります。1年生は Groep 1(フルップ エェン)、12歳の8年生は Groep 8(フルップ アハト)と呼ばれます。 ですから、Groep 1、Groep 2 は日本の幼稚園に相当しますね。Groep 3 から Groep 8 までが日本の小学校に相当します。
朝、昼、晩と、親が子供の送り迎えをするのが一般的です。昼は、一旦家に戻って家で昼食をとります。一時間15分程度しかないですが、ほとんどの子供が徒歩、または自転車で通える距離のところにある学校に通っていますので、あまり問題は無いです。 共働きも多いので、両親ともに昼食時の送迎ができない場合は、祖父母の出番。祖父母が活躍できない場合には、「残ってお弁当」ということができる学校も最近は増えてきているようです。
最近はオランダも少子化なのか、それとも過疎化なのか、小さな村、町では小学校の統廃合が行われています。また、国の予算が減らされているという要因もあるのかもしれませんが、小さな学校では二学年同じ教室での授業、というところもあるようです。
教科については日本とあまり大差はありませんが、この給食が無いこと、そして掃除の時間がないことが日本の小学校と大きな違いでしょうか? 掃除など躾は親の仕事とわきまえているのでしょう。
最終学年、Groep 8の二月にCitotoetsという全国一斉のテストが行われます。その結果が、Middelbare school の進路指導の参考にされます。最終的には先生と親子の三者面談で、親の希望や本人の希望を考慮して決定されますが、Citotoets の結果が大きな判断材料に なることは間違いないようです。
2.中等教育 middelbare school
オランダの中等教育は、大きく分けて二つ、一般教育と職業教育(LBO、het lager beroepsonderwijs)があります。(lagerは、英語のlowerの意味)
一般教育の方は、以下の三つに分かれております。
MAVO(het middelbaar algemeen voortgezet onderwijs)
HAVO(het hoger algemeen voortgezet onderwijs)
VWO(het voorbereidend wetenschappelijk onderwijs)
voortgezet onderwijs = secondary school の意味です。ですから、MAVO に比べ、HAVO はhoger(= higher)になります。そして、VWO は、preliminary scientific/academic education という意味です。
MAVO だけの学校や HAVO だけ、VWO だけという学校はあまり無く、MAVO とHAVO とVWO の三つが併設されている学校、HAVO とMAVO や HAVO とVWO の二つが併設されている学校が多いです。そのような学校では、二年後、三年後に最終進路を決めることができます。 その間、成績が大きく変わることもあるだろうし、また自分の将来をじっくり考えることもできるし、転校などの負担も無いので、併設校は子供にとっても親にとっても楽ですね。
MAVOの後はMBO(Het middelbaar beroepsonderwijs)へ、HAVOの後はHBO(Het hoger beroepsonderwijs)へ、そしてVWOの後は大学(Universiteit)へ行くのが一般的です。
Middelbare school は、普通の都市なら数校あります。学校へは自転車で通うのが一般的です。田舎に住んでいる子も、10 数kmを自転車で通います。雨が降ろうと、雪が降ろうと、いつも自転車です。
学校生活は楽しそうですね。高校生になると gala と呼ばれるパーティもあります。みんな正装です。女の子は肩や背中の開いたカクテルドレス、パーティドレスで、カッコイイですよ。 顔つきはまだ幼いですが、高校生ともなると背の高さも体つきも大人ですから、そんなドレスがとてもよく似合います。
昔は16歳からお酒が飲めたので、学校でのパーティでもお酒が出たのですが、今は18歳からに変更になったため、学校でお酒が出ることは無くなったでしょう。
そんなパーティばかりの学校生活でしたら言うこと無しですが、楽しいことがあれば、つらいこともあります。年に数回ある試験と卒業試験(Eindexamen)。この卒業試験に合格して、Diploma をもらうことが、オランダ社会で生きていくためには非常に重要なことです。 毎年6月の合格発表の祭には、ローカル新聞に合格者の名前は載るし、家の前にはオランダの国旗に使い古した鞄やノート類を吊るして、皆がその合格を祝います。
合格率は学校によって異なりますが、85% から95% ぐらい。そう、不合格となる人も何人かいます。
3.高等教育 hogeschool
HBO(Het hoger beroepsonderwijs)と大学(Universiteit)がオランダの高等教育に当たります。HBO は beroep(= business, occupation)という名が示すように、高等職業学校です。 大学がアカデミックな教育を基本としているのに対して、HBOでは実務に直結した専門教育が行われます。学校の先生になる人、セラピストになる人などはHBOで教育を受けます。 大学に比べて、HBOは学校の数も多く、また履修できる科目も多岐に渡っています。
基本的に、HBOは4年間、大学のBachelor(学士)は3年間です。でも、大学をBachelor 3年で終わりにする人はほとんどいないそうで、みな Master(1-2年)まで行くと大学生の娘が言っていました。 また、落第、退学(進路変更)の数は、日本とは比較にならないほど多いです。
ちょっと気になるのが、学校の授業料(collegegeld)。2009年-2010年の学校年度で、年間1565ユーロです。この金額は、HBOも大学も同じです。但し、30歳未満の学生はこの金額、とのことでした。 おそらく30歳以上の人は、職を持っていて収入があるだろうから、ということだと思います。
日本の公立大学と比べても、授業料は半分以下ですね。 その分、所得税率が高い、ということがありますが、学費が比較的安く、そのため誰でもが平等に教育を受けられる、平等に教育の機会が与えられている、ということで、日本より優れているのではないでしょうか?
教育費でバカにならないのが、書籍代、文献費です。個別に比較したことはありませんが、一般に書籍類はオランダのほうが高いなあと感じます。でも、大学の授業で使う書籍は、 何年も同じものを使うことが多いようで、上級生から安価で譲ってもらったり、次の年の人に譲ったりするのが一般的です。そのような売買を扱う専用のウエブサイトもあるとか・・・。
小学生のときから教科書は貸与で、何年も同じものを使っているので、使い回しには抵抗は無いのでしょう。資源を大切にするという、いかにもオランダ的だと思います。 そうですよね、昔一万円以上も出して買った(当時としては大出費)、量子力学の教科書など、二度と開くことは無く、本棚の飾りとなっていますので、使ってくれる人がいて売れるものなら売りたいです。
奨学金制度(studiefinanciering)ももちろん存在します。以下の条件を満たす人で、希望すれば誰でももらえます。
・30歳未満であること。
・オランダ国籍を持っていること。
・一年以上全日制の学校に通うこと。
親元から通っているか、Studentenhuisなどに住んで通っているか、親の収入状況などのよって変わってきますが、最大で900ユーロ程度借りられます。そのうち200ユーロ程度は返却不要、残りを10数年で返却していくことになります。 返却は毎月いくら、と自分で決めることができるようです。また、利息が付きますので、早めに返したほうがお得です。
現在はどうか知りませんが、昔の日本育英会の奨学金には利息は付かなかったですね。
それともう一つ、オランダの学生(hogeschoolの生徒)の特典は、OV-studentenkaartです。OVは、openbaar(= public)で公共交通機関のこと。OV-studentenkaartとは、すなわち学生の定期券、バスや電車での通学に使う定期券のことです。 これが、オランダ中の全学生に無料で支給されます。OV-studentenkaartには二種類あって、WeekkaartとWeekendkaart。前者は月曜から金曜までのウィークデイに使えるカード、後者はウィークエンドのみで使えるカードです。 親元から通っているような人は前者を、そして普段は学校の近くの自転車で通えるようなところに住んでいて、週末になって親のところに帰るような人は後者を選択するようです。
4.オランダの大学 universiteit
オランダには13の大学があります。VWO のdiploma を持っている人は誰でも入学できます。医学部など人気のある学部で希望者が定員以上になると、抽選になってしまいます。 システムの詳細はよく分からないのですが、抽選もVWOの卒業試験の平均点の高い人のほうが、低い人に比べてチャンスは大きいとのことです。
大学名と所在地(都市名)を以下に示しました。
Universiteiten | Stad/Link |
Universiteit Leiden | Leiden |
Universiteit Utrecht | Utrecht |
Rijksuniversiteit Groningen | Groningen |
Erasmus Universiteit Rotterdam | Rotterdam |
Universiteit Maastricht | Maarstricht |
Universiteit van Amsterdam | Amsterdam |
Vrije Universiteit Amsterdam | Amsterdam |
Radboud Universiteit Nijmegen | Nijmegen |
Universiteit van Tilburg | Tilburg |
Technische Universiteit Delft | Delft |
Technische Universiteit Eindhoven | Eindhoven |
Universiteit Twente | Enschede |
Wageningen Universiteit | Wageningen |
Titulatuur タイトル、肩書き
大学(Bachelor)を卒業すると、当然のことながら学位をもらうことができます。理学士(BSc, Bachelor of Science)、工学士(BE, Bachelor of Engineering)、法学士(LLB, Legum Baccalaureus)、などなど。 また、そのあと修士(Master)課程を履修・修了することで、修士の学位をもらうこともできます。理学修士(MSc, Master of Science)、工学士(ME, Master of Engineering)、法学修士(LLM, Legum Magister)。
日本では、学士号、修士号は掃いて捨てるほどいますので、名刺にこれらの肩書きをつけている人はいません。しかし、オランダではまだまだ希少価値がありますので、名刺にこれらの肩書きを付けている人を見かけます。
Ir.(Ingenieur):工学(修)士。HTSなどの工業専門学校を卒業した人は、Ing.という肩書き。
Mr.(Meester):法学(修)士(のようです)。
Drs.(Doctorandus):Dr.の候補者。
Dr.(Doctor):博士号。